なぜ紀州のドン・ファンは13億円の遺産を自身の希望通りにできないのか?
先日「紀州のドン・ファン」こと、和歌山県田辺市の元会社社長・野崎さんが生前に残した”遺言書”の有効性をめぐり、和歌山地裁は遺言書は有効だとする判決を出しました。
野崎さんには少なくとも13億円以上の財産があるとされていますが、生前残した遺言書には「全財産を田辺市に寄付する」と書かれていたそうです。したがって、この判決が確定すると田辺市は遺産を受け取ることになります。
とはいえ、この事案が確定するにはまだまだ時間がかかりそうです。それは野崎さんの兄弟が相続権を主張していたり、元妻の須藤さんに対して野崎さんの殺人容疑がかかっており、もし殺人罪が確定すると、須藤さんの相続権が失われたりするなど、非常に混沌とした状況であるためです。
つまり、野崎さんの遺産相続問題を解決するには「親ご本人名義の不動産を売却できなくなる」以下2つの判決が確定する必要があります。
1.野崎さんの遺言書の有効性が確定すること
2.須藤さんの殺人容疑に関する判決が確定すること
仮に2つの争いが最高裁まで行った場合、解決までには相当な時間を要するでしょう。まさに”泥沼”という表現が当てはまる状況ですね(^^;)
では、仮に野崎さんが「全財産を妻に遺贈する」という希望をもっていたとして、誰も争うことなく叶えるにはどうすれば良かったのでしょう?
ということで、この記事では、野崎さんが生前にやっておくべきだった2つのことについて解説していきます。
「紀州のドン・ファン」事件をざっとおさらい
紀州の資産家の野崎さんという方がおられて、この方にはお子さんがおらずご兄弟が何人かおられて若い奥様と結婚なされたということでしたが、不審な死を遂げられました。
この奥様が殺したのではないかと今は収監中で裁判中ですが、まだ有罪無罪の確定はされていません。
そして、その後になって野崎さんの自筆証書遺言が出てきました。
この遺言が有効か無効かどうかというとちょっと微妙です。
遺言なのに宛名〇〇殿と書いてあるし、〇〇の清算を頼むとも書いてあります。
住所、生年月日も書いてありませんし、有効か無効か判断が微妙ですね。
ですが、和歌山地裁はこれは有効だと判断しました。そして、野崎さんのご兄弟は1審判決を不服として控訴しました。
なぜ野崎氏の財産は希望通りにならないのか?
遺言書の有効性が確実ではないからです。そのためご兄弟は法定相続分を請求するために「この遺言書は本人以外が作成した可能性が高い」と主張し、遺言書の無効を求める訴えを起こしました。
さらに、たとえ遺言書が有効と判断されたとしても元妻の須藤さんには遺留分請求ができる権利が残ります。
生前にやっておくべきこと1 : 遺言書の有効性を確実にしておく
遺言書の有効性を確実にするために、公正証書遺言を作成しておいた方が良かったと思われます。今回の自筆証書遺言と異なり、法律の専門家である公証人が作成するため方式の不備で無効になりことはありませんし、公証人が遺言者の遺言能力の有無を確認するので、この点について後ほど争われる可能性は低くなります。さらに、原本は公証役場で保管されますので、改ざん・紛失のおそれもありません。
ただし、遺留分を請求されたら支払うしかありません。
生前にやっておくべきこと2 : 信託を用いることも検討する
遺言は死後に効力を発するものです。では、遺言ではなく信託をしていたらどうなっていたでしょうか?
信託は、生前に信託行為をしたときから効力を発します。
仮に「妻に全財産の受益権をあげる」としていたらどうなっていたでしょうか?
→そのとおりに全財産が妻のものになっていたと思われます。
→そして、相続欠格というのはありますが、受益者欠格というのは無いですから、仮に殺人事件の犯罪者になったとしても受益権はもらえるということになるので、また違った展開になっていったはずです。
最後に
この事件の真相は謎ですけれども、このように信託があれば違った展開になったことはわかります。
今回はわかりやすく「妻に全財産の受益権を」という話を例としておりますが、本当に渡したい人に信託受益権を渡すことで信託法の世界では、その通りに財産の行方が決められるということです。