成年後見制度と家族信託

現在日本の要介護人口は約670万人と言われています。(※2021年厚生労働省「介護保険事業状況報告」より)
そして、認知症患者は約443万人です。(※資料:「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(令和5年度老人保健事業推進費等補助金九州大学二宮利治教授)より厚生労働省にて作成より)
これは、65歳以上の約6人に1人の割合となっているんです。事前に何の対策もしないで認知症になってしまったら、いったいどうなってしまうのでしょう?
日本は、医療が発達していて、ご長寿国で、それは素晴らしいことなんですけど、一方で認知症などの病気と向き合っていかなければならない現実がある。今日は、このお話を掘り下げていきたいと思います。
何の対策もせずに親が認知症を発症してしまったら
「俺はまだまだ大丈夫だ!!」と豪語していた父親に物忘れの症状が出始めました。
齢80歳。始まりはちょっとした物忘れでした。それが、日に日に多くなる。昨日言ったことを覚えていられない。怒りっぽくなる。ぼ~っとしている時間が増えた。このような変化があってから、認知症と診断されるまでにそれほど多くの時間はかかりませんでした。
このお話は実際にあったお話です。このお父さんは認知症と診断されて意思の疎通が難しくなってしまいました。元気な間に何も対策をされなかったので、預金の引き出しや自宅の売却もできません。施設への入所費用を賄うため、ご家族は成年後見制度の利用を始めました。
成年後見制度とは
意思の疎通が難しくなってしまったご本人に代わって、成年後見人が契約行為や財産管理をご本人のために行う制度です。
今回、このご家族はお父さんが元気なうちに何もしていなかったので、法定後見となりました。
家庭裁判所が選んだ人が後見人となり、弁護士の先生が後見人になることが決まりました。
後見人はご本人の財産の管理をしますので、預金通帳や権利証、実印、銀行印、株券などすべてお渡ししなければなりません。
ご家族が驚いたことは、お父さんの預金通帳の名前も後見人の名前に変わってしまうことでした。
さらに、実印は登録を抹消されました。実は、これらはすべてご本人の財産を守るために行われることなんです。
そして、成年後見人はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の監督を受けることになります。
成年後見制度は必要な制度である
例えば身寄りの無い方、ご親族が遠方や海外に住んでいて頼ることができない方などにとっては、自分の代わりに財産を管理してもらえたり、施設の入所手続きを行ってもらえるのですから、成年後見制度は必要な制度なんです。
成年後見人は、本人の不動産や預貯金などの財産を管理して、本人の希望や体の状態、生活の様子などを考えて必要な福祉サービスや医療を受けられるように介護契約の締結や医療費の支払いを行うのです。とは言っても、食事の世話や実際の介護は成年後見人の職務ではないため、施設のヘルパーさんやケアマネージャーさんが行うことになります。
成年後見制度のデメリットは?
必要な制度ではあっても、デメリットと考えられることもいくつかあります。
例えば、一度後見人を付けてしまうと、本人が死ぬまで外せないこと。
法定後見になって、専門家が後見人に付くことになれば、死ぬまで後見人に対して報酬を払い続けなくてはならないこと。
家族側からは、預金の残高や何にお金を使ったかなどを知ることが難しいこと。などが挙げられます。
家族が近くにいて、頼ることができる関係だったら?!
家族が近くにいて息子や娘に俺のことは頼んだぞ!と言える関係だったらどうでしょう。
自分の財産を他人に任せるのではなく、自分の子供や配偶者に任せることができるのだったら、家族に任せたいと思います。
でも、認知症になってしまったら、ご本人名義の財産である不動産や預金には手をつけられなくなってしまうので、元気なうちに、家族信託契約をしておくのはいかがでしょうか。
他人の関与は入りません。
元気なときに家族信託契約をしておけば、他人の関与は入りません。もし、認知症になってしまって、後見人が付くことになったとしても、信託をした財産(預金や不動産)を後見人が管理することは基本的にはありません。
ですので、管理を任せた息子や娘さん、配偶者がご自分の判断で、ご本人のためにお金を使うことができるんですね。
ここが法定後見と大きく違うところです。
お金の使い道も自由です。
ご本人のためであれば遊興費(例えばご本人との旅行代)などに信託財産を使うのも、もちろんできます。気分転換に映画を見たり、外食をしたり、そんなことにも他人の関与を得ることなく、信託したお金を使うことができます。
これが、法定後見では後見人にその都度申し出をしなければならない、認めてもらえるかもらえないかはそれぞれの判断になります。最終的には家庭裁判所の判断によりますが、まず後見人にこのようなことにお金を使いたいという申し出をしなければなりません。もし、認められなかったら、いくら家族でも、いくらご本人のためと思ってもお金を自由に使うことはできないんです。
いかがでしたか?
それぞれの制度のメリット、デメリットを比較検討して、自分が一番希望する方法を選べるように、元気な、今のうちに対策を考えておくのがご家族のためにも大切なことだと思います。
