信託契約は作る人によって、こんなふうに差ができます!!
家族信託のよくある例として、親の財産を子供に託すことがあります。親が自分の預金の一部を子供に託して、その子供が管理運用処分するんですね。(受託者の権限は契約書内で自由に決められます。)
信託は、個人間の信頼関係を元に行うものですので、「親が子供に」と書きましたが、「夫が妻に」でも良いですし、「信頼する〇〇さんに」でもかまいません。
今日は、財産を託される人(ここでは子供や妻、信頼する〇〇さん)の管理責任についてお話したいと思います。
家族信託における受託者の注意義務を例にして、どんなふうに差がうまれるのかをお話します。
受託者って誰のこと?
受託者とは、財産を託された人のことです。
委託者(財産を託す人)から託された委託者の財産を管理・運用・処分する権限を持ちます。
(権限の範囲は自由に決められます)
例として、ここでは親の財産である預金を子供に託す信託契約を結んだことを事例にしてお話しますね!
ここでの受託者は子供です。
受託者はどんなことをするの?
受託者は信託契約書に決められた条項にしたがって、親の財産である預金を管理していきます。
そして受託者には信託財産が自分の固有の財産と混ざらないように、分別管理義務が課されます。
次に、信託が始まると親は預金の一部を、子どもの名義の信託専用口座に移動します。
信託する目的は、親の介護、生活費用、施設への入所費用、など親のためにそのお金を使うこととします。
信託口口座を開設しないといけないの?
いいえ、違います。
信託法第34条をご覧ください。金銭に関しては「その計算を明らかにする方法」で分別管理義務は果たせるとなっていますので、法律上は専用口座自体が不要と解釈されます。その分、帳簿をつけて、「どれが信託財産なのか」がわかれば本来は良いのですが、ただ、それだけでは税務的に弱くなりますから、私たちは、受託者の個人口座の一つを「信託専用口座」としていただくようにお話しています。
分別管理義務は大変??
信託契約書の作り方次第です。信託契約書の作り方次第で、大変にもなり、優しくもなり得ます。
ここが一番大切なところで、本来、信託契約書にひな形というものは無いのですが、無いはずなのですが、金融機関等では「ひな形」なるものが存在するらしいです。
そこでは、受託者に「善管注意義務」が課せられており、大変重い義務を背負うことになっています。
善管注意義務があるなら、帳簿も1円単位まで正確に付けないと違反していることになり、受託者は報酬も無いことが通常ですので、本当に大変なことを続けなければいけないことになってしまいます。
例えば、通帳から3万円おろしたら何に使ったかを善管注意義務を課されているのであれば、1円単位まで記録しておかなければならないということです。これは、とても大変なことですよね。
おそらく、信託法第29条には、受託者には原則「善管注意義務」が課せられておりますので、金融機関の作成する信託契約書にはこの条文から「受託者に善管注意義務」を課しているものと思われます。
しかし、信託法第29条には、このようにも書かれているんです。
ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる注意をもって、これをするものとする。
「別段の定め」を置くことが認められているんですね。
そこで、私たちの作成する「信託契約書」では、この義務を軽減し「自己の財産と同一の注意義務で足りる」としています。
そうすれば、要するに自分の財産と同じ程度の管理で構わないわけですので、例えば通帳の入出金の横に手書きで支出内容の概略を書いておけば何も問題ありません。
このように、信託契約書は作る人(士業・団体・法人・金融機関)によって大きく異なる部分が出てきます。
自分にはどの契約書が合っているか、誰に相談すれば良いか、よく比較検討していただければ幸いです。
私たちは、第三者に対抗って言うんですけど、例えば信託する財産がアパートなどで、入居者さんや不動産屋さんに権限を主張する必要がある場合が想定されるときは、信託契約書を公正証書で作ったり、受託者に善管注意義務を課すことをしたりすることもありますが、ご家族の中でご自宅を信託する場合などは公正証書にもしませんし、受託者に善管注意義務を課すこともありません。
皆さんの立場に合った、それぞれ皆さんが一番使い勝手の良い方法で信託が進められるように、信託契約書を組成しています。
いかがでしたか?
受託者の管理義務のひとつをとっても、信託契約書の内容で実際の実務の負担が大きく変わることがわかりましたね。
自分にはどんな契約書が合っているのか、誰に頼んだら自分の希望通りに信託ができるのか、を今一度比較検討いただければ幸いです。
最後に参考までに信託法第29条と第34条の条文を記載しておきます。
信託法第29条
(受託者の注意義務)
第二十九条 受託者は、信託の本旨に従い、信託事務を処理しなければならない。
2受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これをしなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる注意をもって、これをするものとする。
信託法第34条
(分別管理義務)
第三十四条 受託者は、信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを、次の各号に掲げる財産の区分に応じ、当該各号に定める方法により、分別して管理しなければならない。ただし、分別して管理する方法について、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。