共有状態を解消する信託
相続などで不動産を共有状態にしてしまうことはよく行われてきました。
例えば、父親が亡くなって、自宅を母親と子供で相続した場合などです。そうなると、自宅は母親と子供の共有状態になっています。
相続税の配偶者税額軽減などを考えてあえて共有状態にすることも少なくありません。
ですが、共有状態ではいろいろ問題点が出てきます。今日は、この共有状態にあることの問題点とそれを解消するための信託の活用をお話してみたいと思います。
不動産を共有状態にする問題点とは?
まず、不動産の共有持分を持っている人が認知症や重病になって意思の疎通が難しくなると、その不動産を売ることはできません。
民法の世界の「所有権」はとても強い権利なんです。
共有状態になったときの規定が民法に定められています。
例えば
(共有物の使用)
第249条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
(共有物の変更)
第251条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
(共有物の管理)
第252条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
(共有物の分割請求)
第256条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から5年を超えることができない。
などです。このように、共有不動産を使用するときは、持分に応じた使用しかできませんし、変更しようとしたら、他の共有者の同意を得なければ変更できない。管理も持分の過半数で決定しなければ管理もできない。そして、各共有者は分割請求ができる。と、民法は共有物に対していろいろと規定を置いているんですね。
共有状態解消のための手段として
誰かひとりが他の共有者から、不動産の所有権を買い取るという方法が考えられますが、それには資金が必要ですし、税金がかかる場合もあります。さらに共有者本人の同意がなければ売買契約自体ができませんから、上記のように認知症や重病になって意思の疎通ができない共有者がいればこの方法をとることもできません。
そこで信託の登場です。
信託は、信託財産(不動産)の名義と権利を分離することができるので、権利を持つ人が何人いたとしても、その人達全員が同じ受託者に対して信託をすれば、名義は一本化されるのです!
さらに、移転するのは「名義」だけで「権利」は移転しないので、課税されることは一切ありません!
信託であれば、売買を躊躇する共有者でも自分の権利はそのまま守られたうえで、面倒な不動産の管理を受託者に任せることができるわけですから、抵抗感は少ないですよね。
名義を一本化できていない不動産は何をするにも共有者全員の印鑑が求められますし、管理は面倒ですし、将来における権利のさらなる分散も懸念されます。
このように共有状態解消のための信託は、非常に便利に使えるんです。
さらにこんな活用方法もあります。
いくつもの土地を買い集めて、都市開発などをする場合は、地権者がたくさんいて大変になりますので、信託でもって「名義」と「権利」を分離させて「名義」だけを先に集めるということに活用すれば、途中で地権者のお一人が認知症になっても、重病になっても名義が一本化されているので、その名義人の判断で都市開発を続行できるという使い方もあります。
いかがでしたか?
共有状態になっていると何かと面倒なところ、信託でもって「名義」と「権利」をわけることで名義を一本化し、面倒を無くす。こんな方法もあることを知っていただければ幸いです。