お客様が家族信託を選んだわけ

最近は認知症対策として、金融機関も代理人制度など積極的に取り組みを始めていますね。金融機関が設定する家族信託もあります。
また、他の士業の先生も家族信託に積極的に取り組む姿勢も見られます。
そのような中、家族信託を扱ういろいろな団体の話を聞いて、まわりまわって私の事務所にご依頼をいただいたお客様。
今日は、こちらのお客様からいただいたお話を少しご紹介させていただきたいと思います。
預金だけでなく、自宅をなんとか対策する必要があった。
お客様のご自宅が経年劣化によって配管、水回りの補修をしなければならなかった。
自宅も20年30年と住んでいるとどうしても補修が必要になってきます。終の棲家とするときにある程度まとまった改修工事をする必要がありました。
「これがおそらく自分が生きている間の最後の工事になるだろう。」とおっしゃっていました。
安心してこれからの老後を過ごすために、今の段階で改修工事を行っておきたかったということです。
実は長年連れ添った妻に物忘れの症状が出始めたため、夫であるお客様はいろいろ自分で調べて、銀行に相談に行ったり、税理士の先生、司法書士の先生、いろいろなところに相談しておりました。
銀行に勧められて、代理人制度に取り組む
まず、金融機関に勧められて代理人制度を知りました。
妻が認知症になっても、代理人制度を使えば、夫である自分が妻の預金からお金を引き出せるというものです。
これはとても良い制度だと、さっそく詳しく話を聞くことにしました。
ところが、話をしっかり聞けば聞くほど、「めんどくさい」「大変そう」という感想を持ちました。
まず、妻が認知症と診断された後でなければこの制度は使えないから、認知症と診断された診断書を持ってまた銀行に行って手続きをしないといけないこと。
次に、自宅の改修工事費用など、まとまったお金をおろすときは、工事業者からの請求書や領収書などをもらってこないといけないこと。
さらに、引き出しの都度、自分の身分証明書の提示が必要なこと。
妻に法定後見人が付いてしまうと、この預金も後見人の管理下に置かれてしまうこと。
などなどが、自分が想像していたよりもずっと制約が多いと感じたとのことです。
そして何より自宅などの不動産の対策は何もできないことを知りました。
次に金融機関の行う家族信託の内容を聞いてみました。
別の日に、再度金融機関に出向いて、金融機関の取り扱う家族信託の仕組みを聞いてみました。
このとき、驚いたことは、その金融機関の本店で話し合いが行われたことでした。
今までは支店で担当者に話を相談するのが通常だったのですが、家族信託となった途端、本店の応接室に通されてそこで話をすることになったとのことです。
大変厳かな雰囲気の中、家族信託の専門ということでお2人の職員さんを紹介されました。
職員さんは一生懸命、金融機関の取り扱う家族信託について説明してくれましたが、どうも自分が求めている内容と違った。とおっしゃいます。
職員さんが一生懸命話されるほど、自分の気持ちは遠のいていった。とのことです。
そして、帰り際、お客様はその職員さんに「次からは、こんな応接室はやめてくれないか。自分は一般市民だから、こんなふうに別室は気が引けるんだよ」と言って帰ってきたそうです。
なぜ、お客様がそんな気持ちになってしまったのでしょう?!
私はいくつか思い当たります。
私もこちらの金融機関さんに出向いてお話を伺ったことがあるからなんですが、例えば
・信託契約書は公正証書で作らなければならない。ことや
・信託監督人を置かなければならない。こと。
・受託者には善管注意義務が課されること。
などをはじめとする制約がいろいろあり、驚きました。これらの制約は、信託法で定められているものではないんです。信託法の中では、公正証書で作らなければいけないなんて、どこにも書いておりません。
もちろん、信託監督人を置くのも自由ですし、受託者の善管注意義務も別段の定めを置いて「自己の財産と同一の注意義務」にすることが認められているんですね。
では、もし、上記の制約が課されるとどうなると思いますか?
・信託契約書を公正証書で作らなければいけない
→→→公正証書にする費用が別途かかります。公証役場に支払う手数料です。メリットは、確かに本人の意思で信託契約書を作成したことの証明となることがあげられます。
・信託監督人を置かなければいけない
→→→受託者は、信託事務について信託監督人から監督を受ける立場になります。ご家族の中で信頼関係を元に行う家族信託では、信託監督人は必要でしょうか?もちろん、ケースバイケースで信託監督人を必要とする場合もあります。ただ、ご家族の信頼関係が築けているご家庭では必ずしも必要はないと思います。
・受託者には善管注意義務が課される
→→→善管注意義務が課されれば、託された信託財産を1円単位まできっちり帳簿に付けておかないといけません。でも、これはすごく大変なことです。家計簿だって1円単位まできちんと付けるのが大変なのに、受託者は基本的に無報酬で信託事務を行いますから、無報酬なのに、大変なことをしなければならない義務が課されるわけです。
そこでお客様は自分が求める家族信託がないか探しました
そして私のホームページを見つけられたんです。地元で、家族信託と相続を専門にしている行政書士がいることがわかって、お電話をいただきました。
お客様からお話を伺うと、
・まずは、子どもたちに頼らずご夫婦でなんとかやっていきたいこと。
・妻の物忘れがひどくならないうちに、対策をしておきたいこと。
・ご自宅の改修を自由に行いたいこと。改修費用が思ったよりかかった際は、マンション購入も視野に入れたいこと。
・誰かに監督や監視されるのは嫌なこと。
・これからは夫婦水入らずでできるだけ楽しく、暮らしていきたいこと。
などのご希望を伺うことができました。
私からはその場で簡単に家族信託の組成を行い、例えばこのようにするのはどうですか?とご提案させていただきました。※もちろん、その後正式にご依頼いただいた際は、家族信託の組成を多方面から確認し、細かく調整いたします。
お客様はとてもびっくりされ、本当にそれが可能なんですか?
良いんですか?と何度も確認されました。上記の金融機関に提示された家族信託の内容と比較してのことでした。私はあらためて、信託法にそのような制約は書かれていないこと。信託契約の内容は基本的に自由に決められること。できるだけお客様のご要望に沿った信託契約をすることが大切なこと。などをお話しました。
なぜなら、信託契約後も信託事務を遂行し続けるのはお客様だからです。
お客様ができるだけ負担に感じないように、できるだけご要望にお応えできるように、ですが、信託法はきちんと順守した内容でなければなりません。
そして、私はお客様に「他にも家族信託を取り扱っているところはありますので、いろいろ比較検討してください。自分に一番合ったところを選んでくださいね。」とお声がけをしてその日は終わりました。
1ヵ月後、正式にご用命いただきました。
家族信託の組成も契約も無事に終わり現在に至ります。
お客様には大変喜んでいただいて、私も心からお役に立てて良かったと思っています。
現在も、お客様とは定期的にご連絡を取らせていただいています。
「奥様のお身体の調子はいかがですか?」
「信託専用口座への入金は問題なくできていますか?」
「何か困ったことはありませんか?」
などなど私から連絡があることが嬉しいとおっしゃっていただいているので、私もちょくちょくお電話してしまいます。私もお客様の近況を伺えること、お話できることが仕事にも役立ちますし、何より楽しいんです。
家族信託契約は、お客様の人生に寄り添って進めるものです。私はそう思っています。
ですから、「契約をして終わり」ではないんですね。
むしろ、「契約をしてから」がお付き合いが始まるんです。
これから、お客様には例えば奥様が施設に入居されることになるかもしれない。ことや自宅の改修をやめてマンション購入をするかもしれないこと、信託した財産の確定申告のやり方など、いろいろとサポートが必要になる場面が出てくることが予想されます。そのようなとき、私にお電話をいただければ精一杯のサポートをさせていただきたいと思っています。
それに、信託した不動産を売買したり、賃貸したりするときは、売買契約書や賃貸借契約書も従来のものは使えませんので、必要になった際にサポートさせていただきたいと思っています。
私は、家族信託契約書を作って終わりではなく、お客様の人生に寄り添う士業でありたいと心から思っています。
